![]() | 恋 小池 真理子 新潮社 2002-12 by G-Tools |
最近はこの手の小説をあまり読んではいなかったが、先日の書評をきっかけにいくつか読んでみようと思っているなかで手に取ったのがこの本。
1972年浅間山荘事件という時代背景、軽井沢の魅力的な自然の描写、それらを背景に何ともインモラルな大学助教授夫妻とアシスタントとなった主人公との不思議な関係を描いたもの。タイトルとはまったく違う、濃い作品で、ストーリーにぐいぐい引き込まれる事間違いなし。
著者の「あとがきに代えて」には次の様に書かれている。
神が己の中に降り立ってきたとしか考えられない瞬間。バッハのマタイ受難曲を聴いているときに、突然嵐のように脳裏を突き抜けて行き、ほぼ一瞬にして、あたかもドミノゲームのごとく、パタパタとまとまり、狂った様に髪を振り乱してレポート用紙に殴り書きして生まれた。
音楽の世界でも同様の表現があり、そんな説明のつかない瞬間から生まれた素晴らしい作品が存在する。例えばStevieのKey Of Lifeあたりがそうではないか。そう思わずにはいられない作品という事だ。このエピソードを読んでさらに作品への印象が強く残った。
ノンフィクションでない小説はすべからく作り話である。そして小説の大部分を占めているのが男女の事である。それにしてもここに記されたシチュエーションは普通では見当たらない関係である。そうではあるが、登場人物はまるで実在したかの如く読者の心に入り込んで来て、そしていつまでも記憶の隅に残っていきそうなのだ。つまりは作り物の殻を超えて実世界に作用する力があると言う事だ。
時代的には少し上の世代かな。浅間山荘事件は覚えている様で、実は実感無し。でも間違いなくあの事件のあの時代が背景にあり、それを象徴するための浅間山荘事件引用となっているのだろう。そして舞台となる軽井沢の美しさが、主人公を中心とした三人のインモラルながら不思議と清らかな関係を美しく彩っている気がする。ふとした瞬間、瞬間の描写の美しさに筆者の巧みな筆力が現れる。直木賞受賞も納得の作品で一気に読んでしまった。
とはいえ最後のストーリー上のカラクリは無くても良かったのかとも思う。それはあまりに説明的で、それまで作品全体を覆っているある種、ミステリアスな雰囲気を壊してしまう様な気がする。というのは読者の勝手な言い分なのであり、鎌倉、マルメロという締めくくりが作者の技巧なのであろう。悪くは無い幕引きだ。



